20160312 NO.2
◎北の大地の水族館(北見市)
近年、今治市内でも「水族館を作っては」との声を耳にするようになった。しかし、高額が見込まれるその建設費用や維持管理費のことを考えると二の足を踏まざるを得ないと思っている。そのような中、創意工夫によって、とても低いコストで建設し多くの入館者を集めている水族館が北海道にあるという情報を得て、さっそく視察することにした。
その水族館は正式名称を「山の水族館」と言い、今から40年近く前に、当時の留辺蘂町長が「海に水族館があるのは当たり前。山にでも川には淡水魚はいる。山に水族館があってもいいのでは」と観光開発の意義を述べたことから実現している。開館した1978年からの6年間は、毎年4〜5万人台の入館者を維持していたが、その後減少傾向が続いて、1998年以降は2万人台まで落ち込んで推移した。また、厳しい気候の冬期間は客足が極端に落ち込むため休館している状況であった。
留辺蘂町は2006年3月に近隣市町と合併し新北見市になり、山の水族館を含む温根湯(おんねゆ)温泉地域の振興策が検討され始め、2011年には老朽化した水族館をいったん閉館し、移設、リニューアルすることが決定された。
リニューアルに関する当初予算額は2億5千万円で、通常の水族館建設費用の数十分の一という極端な低額の計画であったが、ダメもとで著名な水族館プロデューサー中村元氏にプロデュースをお願いしたところ、快諾されてボランティアで計画に参画してくれることになった。
中村氏の提唱する水族館コンセプトは、「@建物に金をかけない。A客は展示水槽を見る。展示の工夫が大切。B客の8割が大人。大人に魅力を感じさせる。C魚より水塊に癒しを求めて人が来る。」であり、実際にリニューアルされた水族館は、これらの考え方が徹底して反映されたものになっている。
当初事業費の2億5千万円は国の「まちづくり交付金」を活用したもので、計画を進めるうちに地元からも支援(寄付)を受けることができ、結果として3億5千万円の建設費となった。これ以外に旧施設の取り壊し費用、イベント費用などが加わり、総事業費は4億4千万円とのことである。これほどの低額で仕上がったのは、徹底して建物費用を削減し、また、水槽内に設置する木材や石材を地域の人や水族館スタッフなどがボランティア参加で用意したこともあるが、この水族館には大量の清涼な地下水があり、これを活用することで一般水族館の心臓部である濾過装置を省くことができたことに起因している。このことは運営経費の低減に直結するものでもあり、素晴らしい地域資源はうらやましい限りである。
リニューアルされた水族館のメインは、世界初の「滝壺水槽」と「凍る水槽」。滝壺の様子を下から眺めるものと、北海道内でも特別に寒い気候を活かして凍った川の氷の下を見ることができるものになっている。もの凄い発想である。凍る水槽は、夏場には大量の地下水を使って北海道の激流を実現するとともに、冬には、その時期でしか見ることができない状況を作り出して、客足の途絶えを解消している。
photo-1 水族館エントランス
photo-2 凍る水槽
photo-3 凍る水槽の案内表示
photo-4 氷の下の様子
二つ目のメインは、幻と言われる巨大魚イトウが群れをなす大水槽。これも大雪山の伏流水である大量の地下水が支えている。
三つめは、熱帯の巨大淡水魚が泳ぐ水槽である。熱帯の水温を保つために、ここでも地域資源である温根湯の温泉水が使われている。この温泉水を使うと、どういうわけか魚の成長が早いそうで、加えて美しく健康に育っている。魔法の温泉水と呼ばれている。巨大なアロワナの美しさに見とれてしまった。
photo-5 1mほどに育ったイトウ
photo-6 大きく、美しいアロワナ
ここまで書くと、この水族館の集客力の凄さも想像できるかと思うが、2012年7月7日オープン以降、1ヶ月で5万人、1年で約30万人というから驚きである。当然のことながら、地域に及ぼす経済効果も素晴らしいもので、シンクタンクの試算によると、オープンからの9ヶ月で25億6千万円とのことである。客足は徐々に減少しているものの、オープンから4年目となる平成27年度においても、年間15万人程度の入館見込みになっている。人件費も含んだ年間維持管理費が約3,780万円(聞き取りによる)であることから、直接の入館料だけで、資本費まですべて回収できてしまえそうな実績を残している。
呼称は、正式には元来の「山の水族館」であるが、中村氏の提案による「北の大地の水族館」も並行して使われて、全国的にはこっちの方が有名になっているようである。今治市での水族館については、初めに書いたように無理であると思ってはいるが、今回の事例を見てみると、検討の余地は十分にあるようにも感じられる。固定観念にとらわれず、検討を重ねることによって可能性が広がるのではないだろうか。水族館のつもりが、他のものになってしまっても大いに結構である。
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